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名古屋地方裁判所 昭和48年(行ウ)20号 判決

豊橋市曙町字測点一九番地

原告

株式会社 井口運輸

右代表者代表取締役

井口敏

右訴訟代理人弁護士

竹下重人

同市吉田町一六番地の一

被告

豊橋税務署長

浜田務

右指定代理人

遠藤きみ

渡辺宗男

鈴木章

内藤久寛

吉沢専一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  被告が原告の昭和四三年一〇月一一日から同四四年五月三一日までの事業年度(以下本件事業年度という)の法人税について昭和四七年一〇月一一日付でなした更正処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二  被告

主文同旨の判決。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は本件事業年度の法人税について昭和四四年七月三一日付で別表(一)「確定申告」欄記載のとおり青色申告書により確定申告をしたところ、被告は昭和四七年六月一七日付で同別表「第一次更正」欄記載のとおり更正および重加算税賦課決定(以下第一次更正処分という)をしたので、原告は同年八月五日国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、被告は昭和四七年一〇月六日付で右審査請求中の第一次更正処分を全部取消し、次いで同年一〇月一一日付で同別表「第二次更正」欄記載のとおり改めて更正処分(以下本件処分という)をなしたので、原告は同年一二月一日付で右処分について前記審判所長に対し審査請求をなしたところ、同所長は同年一二月四日付で第一次更正処分に対する審査請求について却下の、同四八年五月二八日付で本件処分に対して棄却の、各裁決をなし、原告は同年五月二九日ころ後者の裁決書を受領した。

2  しかしながら、本件処分は更正権の濫用にあたり違法である。すなわち、

(一) 昭和四七年六月一七日付でなされた第一次更正処分の通知書の更正理由欄には「加算(1)給与不当一八〇万円。昭和四四年五月二八日支給賞与は損金計上が不当と認められますので加算いたします。」とだけ記載されていた。

(二) 右記載は青色申告に対する更正通知書の理由付記としては不十分であって、第一次更正処分が違法であったことは明らかである。

(三) 原告が第一次更正処分につき別記のとおり審査請求したところ、その請求が係属中である昭和四七年一〇月六日に、被告は右処分を「更正の理由が不備ですから」という理由で全部取消したうえ、同年一〇月一一日付で本件処分をなし、その通知書の更正理由欄に「加算(一)架空給与一八〇万円、減算(一)損金計上賞与中役員分一〇万円」とし、それぞれにつき詳細な理由を付して記載した。

(四) 以上の経緯によれば、本件処分は、第一次更正処分に対する審査請求において被告が不利益な裁決をうけることが明らかであったため、これを回避するだけの目的をもって附記理由の不備を補正するためになされたもので、更正権限の濫用にあたるというべきである。

なお、被告主張のとおり第一次更正処分に対する審査請求にあたり、原告が理由附記の瑕疵について言及していなかったことは認めるが、審査庁は原処分庁、審査請求人の主張の範囲に拘束されず、原処分の適法性のすべてについて審理判断をなしうるものである。

3  また本件処分は、前記のとおり被告が従業員賞与一八〇万円を仮装経理であるとして否認した結果所得金額の認定を誤まった点および国税通則法七〇条所定の期間経過後に更正された点においても瑕疵があり違法である。

よって本件処分の取消を求める。

二  請求原因に対する被告の答弁

1  請求原因1は認める。

2  同2のうち(一)、(三)は認め、その余は争う。

原告は第一次更正処分に対する審査請求において、その理由としては支給給与一八〇万円の損金計上の是非についてのみ主張し、右処分の理由附記についての瑕疵については全く言及していなかったものである。従って被告としても右審査手続で右理由附記の瑕疵については何ら弁疏する意図はなかったが、偶々右瑕疵を発見したので審査手続とは無関係にそれを是正する必要から第一次更正処分を取消して、改めて理由附記を完備した本件処分をなしたにすぎない。

また、税務署長は、適正確実な課税を確保実現するため、先に行なった更正に瑕疵ある時はこれに対して常に再更正をなすべき権限と職責を有し、右更正の瑕疵が実体関係にあると手続関係にあるとを問わず、また右更正に対する異議・審査・訴訟の係属中何時でも再更正をすることができるものである。従って、再更正が適正課税を実現するものである以上、その権限の行使が濫用とされる余地はない。

更に、元来権利の濫用か否かの判断については相対立する利益の比較衡量を必要とする。そして本件の場合、被告のなした第一次更正処分の取消および本件処分によって、原告に改めて審査請求すべき手続上の不利益をもたらしはしたが、第一次更正処分に対する審査請求の対象となっている課税標準額、税額については本件処分についても審理されるのであるから、実体上の不利益は殆ど考えられない。他方本件処分が更正権の濫用として取消されると、原告は所得額が存在するにも拘らず課税を免れることとなり、課税の不公平を来すことになる。このように更正権を行使しえない場合の方が影響が大きいときは、その行使について権利濫用の法理を適用すべきではない。

3  同3は争う。

三  被告の主張

1  原告は、昭和四三年一〇月一一日資本金五〇〇万円、本店所在地豊橋市曙町測点一九番地として設立され、貨物自動車運送業を営んでいるものであって、法人税法二条一〇号にいう同族会社である。

2  本件処分による原告の本件事業年度における所得金額は次のとおりである。

(1) 原告の確定申告分 一、四四七、九二三円

(2) 被告更正分

(イ) (加算の部)架空給与(賞与)

一、八〇〇、〇〇〇円

(ロ) (減算の部)損金不算入役員賞与

一〇〇、〇〇〇円

(ハ) 差引更正所得金額 三、一四七、九二三円

3 被告が前記2のとおり更正した理由の詳細は次のとおりである。

(一)  架空賞与について

原告は昭和四四年五月二八日取締役浜田憲一外二四名の従業員に対する賞与として一八〇万円を別表(二)「〈イ〉賞与の金額」欄記載のとおり支出計上しているので、被告が調査したところ次の事実が判明し、右一八〇万円は法人税を不正に免れるため架空経費として仮装支出したものと認められたので、これを否認し所得に加算した。

(1) 原告は、昭和四四年五月二八日賞与一八〇万円を従業員二五名に支払うことを仮装して、右金額から各従業員の社会保険料・所得税相当額合計二〇七、〇〇〇円(別表(二)(ロ)(ハ)欄参照)を控除した残額一、五九三、〇〇〇円の小切手(支払人豊橋信用金庫小池支店、振出人原告、小切手No.W〇九一七二)を振出す一方、同日現金五〇万円と合わせてその合計二、〇九三、〇〇〇円を即日右支店における土井勇夫なる架空名義の通知預金口座(No.F〇三二七三)に預入れた。

(2) 次いで原告は、右預入の日から半月足らず後の同年六月一一日に右通知預金を解約し、元金二、〇九三、〇〇〇円、利息(所得税控除後)一、九九三円の合計二、〇九四、九九三円から原告が前記金庫への借入金利息として支払った四六〇円および現金受領分四四、五三三円を控除した残額二〇五万円をそのまま自己の当座預金に入金したうえ、別表(二)「〈ホ〉昭和四四年六月一一日借入」欄記載のとおり前記従業員からの借入金として計上処理した。

(3) その後原告は、右借入金二〇五万円のうち一〇〇万円を昭和四六年八月六日前記従業員浜田憲一外一五名に、同年九月一〇日同松本三郎外八名にそれぞれ別表(二)〈ヘ〉〈ト〉欄記載のとおり各返済したと経理した。

(4) しかしながら、右従業員らに右のとおり金銭が支払われた事実はなく、そのうち昭和四六年八月六日返済分一〇〇万円については原告の架空名義である岡田照市名義の普通預金口座に入金されている。即ち、右一〇〇万円は同日小切手(支払人豊橋信用金庫、振出人原告、小切手No.C〇九三七二)で支払われたこととされているが、右小切手は同信用金庫において同日岡田照市名義の普通預金口座(口座番号No.一七七二)にそのまま入金されており、しかも右一〇〇万円は同年八月一〇日に払出されて、これと原告の代表取締役井口微個人名義の普通預金から払出された四〇〇万円と合せて別段預金(増資資金)として再び預入れられ、同月一六日の原告増資払込金(その払込の明細は別表(三)参照)に充当されているのである。

(5) なお、原告が従業員に対し、賞与を年末一回支給する以外に、年中途で支払った事績はその後一切ない。

右のとおり、原告が従業員に支給したと経理されている賞与一八〇万円は、その大半が右従業員とは全く無関係に原告に対する増資払込に充当されていることが明らかであるなど、その架空支出であることは疑いない。

(二)  損金不算入役員賞与について

原告は前記確定申告において、法人税法三五条による役員賞与の損金不算入額として一〇万円を所得金額に加算しているるが、右は前記(一)の架空賞与一八〇万円のうち取締役浜田憲一に支給したとして経理されたものであって、被告は右一八〇万円を架空支出と認めて申告所得金額に加算したので、右一〇万円を減算したものである。

4 なお、原告は前記のとおり本件事業年度の法人税について従業員に賞与を支給したごとく仮装して所得金額を隠ぺいし内容虚偽の確定申告書を提出し法人税を免れたものであるから、国税通則法七〇条二項四号の場合に該当し、法定申告期限から五年を経過する日まで更正または賦課決定をすることができるものであって、本件処分は右の日までになされているから適法である。

四  被告の主張に対する原告の認否および反論

1  被告の主張1および2は認める。

2  同3について。

(一) 同3(一)のうち、被告主張のとおり一八〇万円を賞与として支出計上していることは認め、その余は争う。原告は実際に右一八〇万円を従業員に支給している。

なお、後記(三ノ記載)のとおり被告が掲げる四名の退職者が何れも被告主張のとおり退職していることは認める。

(1) 同3(一)(1)のうち、被告主張の如き小切手の提出、通知預金への預入があったことは認め、その余は否認する。

右のような処理をしたのは、原告と従業員の協議により賞与を支給するが、原告の資金繰りの都合上、右金額を原告が一時借入れることになったからである。また、預入金のうち現金五〇万円は原告設立前からの従業員に対する賞与ととして原告代表取締役井口敏個人が負担すべきものを同人の資金から支出したものであり、又、各賞与より控除した社会保険料などは何れも法定納期限に納付してある。「土井勇夫」の名義は、右井口敏が二〇五万円を豊橋信用金庫に預入れた際、会社の金ではないから一時預って欲しい旨頼んだところ、同金庫の係員が勝手に作出使用したものである。

(2) 同3(一)(2)について被告の主張を認める。二〇五万円は現実に借入れたものであって仮装のものではない。

そして従業員よりの借入金額を「差引支出額」(別表(二)〈ニ〉)によらず「賞与の金額」(同別表〈イ〉)と同額としたのは、利息の見込金額を加算したものであり、また別表(二)において浜田憲一・松本三郎・小柳津清人・倉本正昭・藤本美智子の五名につき借入金額が右の「賞与の金額」よりも各五万円宛多い理由としては、右五名のうち藤本美智子を除く四名については、原告設立前の井口敏の個人営業時代の就労に対する加功金を井口敏が支払ったものを含めて原告が借入れたためであり、藤本美智子については同女が会計事務に熟達しておりその勤務先の会計事務所からいわば引き抜いてきたからであり、仕度金の趣旨を含めたためである。

なお、後記被告主張(三2)のとおり、右利息(見込)分を損金に計上していないことは認めるが、これは当初の借入金計上に際し利息見込額を含めた金額を借入金元本として計上したことによる。

(3) 同3(一)(3)について被告の主張を認める。二〇五万円は現実に返済しているもので仮装ではない。

(4) 同3(一)(4)のうち、岡田照市名義の預金は不知、原告の増資資金としてうち四〇〇万円が井口敏名義の預金から出たことは認めるが、その余は否認する。

被告主張の小切手(No.C〇九三七二)は、昭和四六年八月六日従業員藤本美智子が豊橋信用金庫へ赴き現金化してこれを受領しており、また増資資金のうち一〇〇万円は、所とみ江に貸付けてあった一〇〇万円がその頃返済され、井口敏の手許現金となり、それをあてたものである。

なお、別表(四)のとおり、原告関係の預金の払出し・受入れがあることは認める。

(二) 同3(二)は計算の経緯を認める。

3  同4は争う。

三  原告の反論に対する被告の反駁

1  原告は従業員に原告の経理どおり現実に賞与を支給し、これを借入れそして返済したものであって仮装したものではないと主張するが、被告の調査によれば原告が支給したとする従業員の中でその後退職した鈴木悟(昭和四四年退職)、鳥羽山貞彦(昭和四五年七月退職)は本件賞与の受給、原告への貸付、原告からの返済の各事実の存在を否定し、また右両名ならびに浜田憲一(昭和四六年六月退職)、谷口喜八(昭和四五年九月)退職も、通常であれば退職時に従業員との貸借関係が精算されるべきなのに退職時に借入金の精算がなされておらず在職中の従業員と同一の日に返済されたというのは極めて不自然である。

2  原告は、従業員からの借入金額について「差引支出額」によらず「賞与の金額」となっているのは、その差額が利息の見込額として合算した趣旨であった旨主張するが、別表(二)記載のとおり右利息見込額とされているものは社会保険料等相当額の合計額であって利息とは全く無関係なものであるし、仮に利息であるとしても全従業員に対して同一利率によって計算されるべきであるのに各従業員毎に利率に差異があり、また右利息は少くとも借入した時の事業年度から返済された時の事業年度までのいずれかの事業年度において損金計上されるべきなのにいずれの年度でも計上されていない。

3  原告取引金融機関である豊橋信用金庫南栄支店備付日記帳明細簿編綴の原始伝票によれば、原告が従業員よりの借入金の一部一〇〇万円を返済したとする昭和四六年八月六日に原告関係の預金として一見明白な預金の払出・受入が別表(四)のとおりなされている。この表で見られる如く原始伝票はNo.七〇を除き、No.六九より七四まで連続し、欠落しているNo.七〇は岡田照市名義の普通預金の「受入れ一〇〇万円」の伝票である。ところで右支店の通常の業務の中では同一取引先から同時に複数の受入れ、払出しがあり出納係を経由した場合には、右伝票は同時に起票され連続番号を付して整理あれている。さらに右No.六九で借入金返済として払出した金額とNo.七〇の岡田名義の預金の受入金額とは一致することから、右払出額が右預金にそのまま預入されたと認められる(別表(五)参照)。

第三証拠関係

一  原告

証人所とみ江・同藤本美智子・同市川敏夫・同浜田憲一の各証言ならびに原告代表者本人尋問の結果を援用し、乙第一、第二、第五、第六、第九ないし第一二号証の成立は不知は、第三号証は官署作成部分の成立を認め、その余は不知、その余の乙号各証の成立は認めると述べた。

二  被告

乙第一ないし第一二号証、第一三号証の一ないし一二、第一四号証の一、二、第一五ないし第一七号証を提出し、証人渡辺誠・同伊藤正彦・同鈴木伸の各証言を援用した。

理由

一  原告主張の経緯で本件処分がなされたこと、原告が被告主張のような会社であることは当事者間に争いがない。

二  ところで原告は、本件処分は第一次更正処分に対する審査請求において被告が不利益な裁決を受けることが明らかであったのでこれを回避する目的でなされたものであるから更正権の濫用にあたると主張する。そこでこの点について先ず判断する。

第一次更正処分の通知書の理由附記が原告主張のとおりであったこと。原告が右処分に対し審査請求したところ、その審査係属中に右処分が取消されたうえ、次いで右処分とほぼ同一の事由につき詳細な理由附記をした本件処分がなされたことは当事者間に争いがない。そして、本件処分がなされた経緯、内容等をみれば、本件処分をなした主たる目的は第一次更正処分の理由附記を補完するために行なわれたと認めるのが相当である。

しかしながら、税務署長は、適正な課税の確保実現を図るため、更正処分の瑕疵を発見したときは、右瑕疵が実体的なものであれ手続的なものであれ、これを取消して新たな更正をなしうるものと解すべきである。

そしてその更正の時期については、更正のなしうる法定期限内である限り、原更正の異議ないし審査請求が係属している段階においても、これをなすことが許されるべきものと考える。蓋し、たとえば、本件更正処分のように理由附記の不備という手続的な瑕疵を主たる理由としてのみ原更正を取消し第二次更正をする場合においては、原告に対し改めて第二次更正の取消を求めて異議申立ないし審査請求すべき手続上の不利益をもたらすことが考えられるが、原更正に対する審査請求の対象となっている課税標準額・税額については第二次更正においても審理判断されるのであるから実体上の不利益をもたらさず、またもし右のような場合に更正権の濫用にあたるとして第二次更正が許されないものとすると、除斥期間の制約を受けて、納税者に所得額が存在するにもかかわらず課税を免れしめることとなり、課税の不公平という重大な結果をきたすことになるからである。従って、本件処分は更正権の濫用にあたるものとはいえず、この点に関する原告の主張は理由がない。

三  次に本件処分の当否について判断するに、その更正の内容が被告主張のとおりであることは当事者間に争いがなく、被告が原告の所得に加算した「架空給与(賞与)一八〇万円」の当否のみが争点であるので、以下検討する。

1  原告が被告主張にかかる本件賞与の支給、従業員よりの借入、従業員への返済について被告主張のとおりそれぞれ経理していることは当事者間に争いがない。

2  そこで原告が現実に右賞与を支給したか否かにつき考察する。

(一)  成立に争いのない乙第四、第七、第八、第一五、第一六号証、証人伊藤正彦の証言により真正に成立したと認める乙第一号証、証人鈴木伸の証言により真正に成立したと認める乙第二、第五、第六、第九ないし第一二号証、証人鈴木伸、同伊藤正彦の各証言によれば、

(1) 従業員への返済にあてられたとされている昭和四六年八月六日付小切手(No.C〇九三七二、金額一〇〇万円)は、同日豊橋信用金庫南栄支店における原告名義当座預金口座から払出され、即日そのまま原告のものと認められる岡田照市名義の普通預金口座に入金され、同年八月一〇日払出されて原告増資資金の一部に充当されていること、

(2) 原告が支給したとする従業員二五名のうち、鈴木悟、同鳥羽山貞彦、同浜田憲一の三名は、本件賞与の支給、原告への貸付、原告からの返済の事実をいずれも否定していること、

(3) 本件を除いて年末一回支給する外、年中途において賞与を支給したことが一度もないこと、等の各事実が認められ、証人藤本美智子、同浜田憲一の各証言、原告代表者本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は前掲証拠に照らしてたやすく信用できず、他に右認定を左右するにたりる証拠はない。

(二)  前記当事者間に争いのない事実と右認定事実によれば、従業員に支給したとする一八〇万円が社会保険料などを控除しているものの、一度も従業員らに手渡されることなく、即日そのまま原告への貸付金とされ、二年余りも経ってから同人らに返済されていることとなり、それ自体不自然である外、借入金額が賞与の差引支出金額(別表(二)〈ニ〉)よりも多いこと、右借入金について借入期間・利息などの約定をなした形跡がみられないこと、右借入金の返済にあてたとされる金員が全然別の用途にあてられていることなどを併せ考えると、原告の前記経理は仮装のものであり、本件賞与の支給はなかったと認めるのが相当である。

(三)  なお、原告は従業員よりの借入金額を右「差引支出金額」とせず、「賞与の金額」(別表(二)〈イ〉)としたのは、その差額二〇七、〇〇〇円を利息見込分として含むかむであると主張するが、これは同別表からも明らかなとおり社会保険料等相当額に該当するものであって利息とは無関係であるし、これを利息と認めるにたりる適切な証拠もない。また原告は本件借入金のうち浜田憲一外四名について借入額が「賞与の金額」より各五万円多いのは、就労加功金ないし仕度金を含む趣旨である旨主張するが、これを認めるに足りる適切な証拠はなく、右五名の者につき五万円を加算する合理的根拠がない。

さらに、原告増資資金のうち一〇〇万円については、原告が所とみ江に貸付けてあった一〇〇万円がその頃返済されたのでこれをあてた旨主張するが、この点に関する証人所とみ江の証言と原告代表者本人尋問の結果とは矛盾する点が多く、かつ供述内容もあいまいであって措信することができないし、また、退職従業員に対する信入金返済について、原告代表者本人は従業者の起した交通事故による事業主の立替金にその借入金を充当した旨供述するが、右供述を裏付ける適格な証拠は他に存在せず措信することができない。

以上原告の各主張はいずれも理由のないものであり、前記認定を左右するにたりない。

(四)  してみると、被告が前記一八〇万円の賞与支給を架空支出であると認定して更正したのは理由があり適法であるということができる。

3  また、原告は本件事業年度において従業員に賞与一八〇万円を支給した如く仮装し、その所得金額を隠ぺいし内容虚偽の確定申告書を提出して法人税を免れたこととなるから、国税通則法七〇条二項四号にいう「偽りその他不正の行為」により法人税を免れた場合に該当することが明らかである。従ってこれに対する更正は法定申告期限から五年を経過する日までになすことができ、本件処分が右更正期間内になされたことは明らかである。よって、本件処分が更正期間経過後になされたもので違法であるとの原告主張も理由がない。

4  以上の次第で、本件処分は適法になされたものであるから、その取消を求める原告の本訴請求は理由がなく失当である。よって、これを棄却することとし、訴訟費用について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田義光 裁判官 窪田季夫 裁判官 小熊桂)

別表(一) 課税経過表

〈省略〉

別表(2) 原告が経理した賞与及び借入金の状況

〈省略〉

別表(三) 増資払込明細

〈省略〉

別表(四) 預金の受入れ、払出し表

〈省略〉

別表(五)

借入金返済の時の動き(昭和46年8月6日) 新株払込み時の動き(昭和46年8月10日)

〈省略〉

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